【正論】弁護士、衆院議員・稲田朋美 「普天間のツケをTPPで払うな」 産経新聞 2011年11月7日 東京朝刊 7面
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)議論が沸騰している。
TPPは全てのモノの関税を原則即時撤廃し、サービス、貿易、投資、労働などを自由化することを目標とし、
現在9カ国が交渉中だ。当然ながら、交渉参加国それぞれに思惑がある。例えば、米国は、アジア太平洋地域への輸出と国
内雇用の拡大、地域でのリーダーシップの強化を狙っている。
≪なし崩し的な譲歩必至の交渉≫
では、日本の戦略は何なのか。イメージ先行で抽象的な決め付けではなく、冷静かつ戦略的な見極めと判断が必要だ。「バスに乗り遅れるな」と推
進派は言うが、バスは乗り遅れるかどうかよりも、「行き先」が重要である。「行き先」が分からない、しかも間違いに気づいても途中下車できない
バスに国民を乗せてはならない。
TPPが、将来の日本の国柄に重大な影響を及ぼすことは明らかで、交渉に参加するなら、国会での十分な議論が不可欠だ。だが、どうやら衆院予
算委員会で1日だけ集中審議し、12日からのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合で野田佳彦首相が交渉参加を表明するらしい。外務委
員会で玄葉光一郎外相に質したが、参加決定手続きは未定、最終的には首相判断という曖昧答弁だった。
もともと、民主党は、昨年の参院選のマニフェスト(政権公約)でも全くTPPに言及せず、菅直人前首相の昨年10月の所信表明で突如浮上して
きた。しかも、今に至るまで、交渉参加の原則的な方針すら決まっていない。コメにかける関税をどうするのか。輸入食品、医薬品、化粧品の安全基
準はどうなるのか。海外の弁護士や外国人労働者の規制なくして、国民の生活や雇用は大丈夫なのか。
農業をスケープゴートに議論を矮小化せず、ISD条項(投資家と国家間の紛争条項)による司法権、立法権の侵害の問題や最大の非関税障壁とさ
れる国語は守れるのかという文明の危機の問題として議論しなければならない。正確な情報も発信されず、交渉に参加すべしとか、ルールを作るとか、
途中で脱退できるのできないの、と抽象的な議論に終始しているようでは、全てをなし崩し的に譲歩することになるのがオチである。
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