日本政府の対外的な情報発信能力の低さは、政治家が全くその訓練をされていないことが大きい。
彼らを甘やかしているのが、実は記者クラブ制度が生み出した「特殊な記者会見のあり方」であることは、あまり知られていない。
あるフリーのベテラン政治記者はこう話す。
「記者クラブ主催の会見では、広報を通じて事前に質問内容を教えることが通例です。この慣例は官僚の『実務が分かっていない
政治家が抜き打ちの質問にまともに答えるなんて不可能だし、無用な混乱は避けたい』という政治家蔑視と、政治家の『どうせ数年しか
役職にいないし、紙を読むだけのほうがラクでいい』という甘えが一致して成り立っています。大臣は官僚が作る『満点』の解答用紙を
朗読するスピーカーになるだけでいい。
当たり前ですが、こんな馬鹿げたことがまかり通るのは日本だけ。記者会見とは、国民の代表たる記者が権力と直接対決する場という
認識が国際スタンダードですから、その使命を果たそうとしないメディアは、国民の知る権利を侵害しているとみなされます。
海外メディアの記者は契約制が多く、ぬるい質問をしていたらすぐクビになるため真剣さが違うのも、サラリーマン化した日本の
大手メディア記者とは違います」
実際に、各大臣は毎週火曜日と金曜日の午前中に閣議後記者会見を開くが、大部分は大臣が机の上のペーパーを見て発言し、想定外の
質問があれば秘書官が分厚いバインダーを手に走り寄り、該当箇所を指し示すというコントのような光景が日々繰り広げられている。
自分で答えられなくても、官僚に「振り付け」してもらえるのだから大丈夫──たいていの政治家は自分で考えることをやめ、役所の
いいなりになってゆく。
国際舞台で、日本の政治家が質問ひとつマトモに答えられないことを露見させた、大物政治家がいる。他ならぬ安倍晋三首相だ。
安倍首相が2015年9月29日、国連総会に出席するためにニューヨークで行った内外記者会見は、関係者を当時騒然とさせた。
(動画:
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0929n...)
安倍首相は途中まで、日本メディア政治部の質問に、机の上にあるペーパーを見ながら実に饒舌に答えている。しかし、ロイター通信の
記者の質問(動画の12分33秒)から様子がおかしくなる。この記者は「アベノミクス2.0」についての事前通告済みの質問をした後、
ゲリラ的に「日本がシリア難民を受け入れるという可能性についてはどう考えるか」と質問したのだ(13分06秒)。
安倍首相はみるみるうちに顔面蒼白となり、目が泳ぎ始める。返答も「人口問題として申し上げれば、我々はいわば移民を受け入れる
よりも前にやるべきことがあり、それは女性の活躍であり、あるいは高齢者の活躍であり、そして出生率を上げていくにはまだまだ
打つべき手があるということでもあります」と、まったく意味不明なものだった。
(続く)
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