●ふてくされた顔を見せる
《甘利氏はあるとき、ワシントンでの交渉でフロマン氏の発言に激怒し、席を立ち、部屋を出ていくという出来事があった》
私たちもそれに続いて部屋を出て、通訳だけが大臣の発言を訳し終えるまで部屋に取り残される形となりました。
ニューヨークでその翌日、安倍氏と当時のバイデン副大統領が会談することになり、私は安倍氏へのブリーフと、会談出席のため急きょ、ニューヨークに向かいました。
フロマン氏は会談で、バイデン氏の横に座り、メモを渡し続けた。ところがバイデン氏はそれには目もくれず、安倍氏に「私もフロマンと話していると腹が立つことがある。ただ、TPPは重要な協定だ。辛抱強く交渉するよう甘利大臣に伝えてください」と言ったのです。フロマン氏がふてくされた顔をしたのは言うまでもありません。
●フロマン氏「あまりに危険だ」
《農産物の中でも、コメは政治的にも一番機微な産品だ》
コメ問題は、私のレベルではなく、甘利・フロマン間で決着させることが政治的に重要だと考えていました。ある日、ワシントンで交渉したとき、カトラーUSTR次席代表代行から「フロマンが部屋に来てほしいと言っている」と言われました。部屋に入ると、フロマン氏は「お前はコメ問題を私と甘利とで決着させようと考えているようだな。しかし、それでは(交渉がまとまらず)あまりに〝危険〟ではないか」と言われました。甘利氏は簡単には妥協しない〝タフ・ネゴシエーター〟です。フロマン氏にそう言わせたのは象徴的な話だと思います。
私は農水省が譲歩できるラインよりも、より日本に有利な状況で交渉を決着させていきました。それが農水省の信頼を得ることになり、農水省が次第に大きな権限をくれるようになりました。ところが、甘利氏は私よりさらに日本有利の状況で交渉を次々と決着させていったのです。
●ジョークで席上、爆笑
《日米交渉がまとまった直後、日米首脳会談がワシントンで行われた》
オバマ氏は冒頭、「甘利大臣は素晴らしい交渉者だ。美味しいカリフォルニア米を送りたい」と言いました。これに対し、安倍氏は「〝枠内〟でお願いします」とジョークを飛ばした。名通訳として評判が高い高尾直君が〝枠〟という単語を「country specific quota」と訳すと、席上は爆笑に包まれ、会談は和やかな雰囲気で進んでいったそうです。
実はこの前日、私は高尾君に、安倍氏が〝枠〟という単語を使った場合、単に枠とだけ訳すと、オバマ氏は何のことか分からないだろうから、そのように訳すように伝えていたのです。私の助言がまさにジョークの場面で使われ、会談の雰囲気作りに貢献でき、嬉しかったです。
つづく
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