持続化給付金事業の委託をめぐる利益誘導疑惑。この手の話は、森友・加計問題でも、桜を見る会でも、これまで様々な場面で聞いた。
私たちはこの状態に慣れすぎてはいないだろうか。
安倍政権による“身内”への利益誘導は、森友・加計問題、大学入学共通テストで予定されていた英語の民間試験導入、桜を見る会などでも
指摘されてきた。我々はそうした疑惑に慣らされてきてはいないだろうか。
広島大学認知行動科学研究室の有賀敦紀准教授は言う。
「心理学の用語で『慣れ』は馴化(じゅんか)と言います。人間は新しいものには敏感に反応しますが、徐々に時間がたつと反応しなく
なります。安倍政権の疑惑に対する慣れは、実際にメディアや国民に起きていると感じます。報道があってもなくても、疑惑が続いている
ことに慣れてしまっているようです。その結果起きることはとてもシンプルで、政治に対する興味を失うだけです」
メディア側の問題は後述するが、まずは背景を見ていきたい。加計学園の獣医学部新設をめぐって政府を批判する元文部科学事務次官の
前川喜平氏はこう振り返る。
「私が約40年前に役所に入ったときは、官僚主導でした。利益誘導や腐敗、汚職というのも、それぞれの役所ごとに官僚が起こします。
政治家と官僚の癒着もそれぞれ役所ごとに縦割りにありました」
それが、後の政治改革で、政治主導という方向にシフトする。第2次安倍政権以降は官僚人事も掌握して官邸主導はさらに進み、
「安倍1強」と言われる状態が続くことになった。
「政治主導は正しいと思いますが、安倍政権は政治主導というよりは、『官邸1強独裁体制』と言えます。権力が集中すると、利益誘導や
腐敗も自然と権力中枢に集中します。現政権の特徴は、そこに『改革』という名目をつけていることです。昔は裏でこそこそやっていたものを、
正面玄関から大きな顔をして改革を偽装してやるようになっています」(前川氏)
前川氏は、こうした利益誘導疑惑が続く原因の一端に、「安倍1強」以外にも、メディアの弱体化があるとみている。国会開会中は野党の
追及を報じることでメディアもそれに乗って追及しているかのようにも見えるが、閉会すれば自らの調査と追及が不可欠だ。それが、
不十分だとの認識だという。
一方で、慶應義塾大学法学部の大石裕教授(ジャーナリズム論)は違う見方をする。「慣れ」とは違う、メディアそのものが抱える問題だ。
「マスメディアがなぜ世論を動かすことができなくなっているかを考えるべきです」
新聞をはじめとする既存のメディアが、この7年以上にわたる安倍政権の疑惑を報じなかったわけではない、と大石教授は考える。
「もちろん調査報道やキャンペーン的な報道が不足していたなど、問題は個別にはあるかもしれません。しかし、過去の政権批判と同様に
報道は行われてきました。それでも一時的に支持率が下がるだけで、その後は回復し、選挙になれば自民党が勝ち続けるという繰り返しでした」
(続く)
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