――最低賃金15ドルに賛成の市長が当選し、あなたは労働側の代表として賃金引き上げの具体案をつくる委員会の共同議長になりました。
ビジネス界からは賃金アップを全否定するような意見は出なかったと聞きます。
「いくつか理由があると思います。まず一つは、シアトルの隣にあり、シアトル・タコマ国際空港を抱えるシータック市の経験です。シー
タックは、手荷物の係員や給油作業員ら空港で働く人たちやホテルの従業員ら限られた労働者を対象に、シアトルに先駆けて最低賃金時給
15ドルを決めました。ただ、このケースでは住民投票を経て最低賃金をいきなり15ドルにしたため、雇い主がかなり困った経験があります。
シアトルではビジネス界も『どう上げるか』について交渉に加わりたかったのだと思います。さらに、シアトル市議会では最近、議会の100年以上の歴史でほとん
ど初めて、正真正銘の社会主義者の活動家が議員に当選し、放っておいたら市政がどんどん極左的になるのではないかとビジネス界が恐れたという事情もあります」
――えっ、正真正銘の社会主義者、ですか。この米国で?
「はい、本物の社会主義者です。大統領選で有名になった民主党のバーニー・サンダースのような社会民主主義者ですらありません。本物の社会主義者、というか、
トロツキー主義者だと公言する人物が公職に当選したのです。ビジネス界は、それは戦々恐々でした」
「三つ目の理由は、ビジネス界のなかにも、中間層が溶解してしまっていることを心配している人が多いということです。彼らは賃金アップを仕方なく受け入れる
というよりも、むしろ必要だと本心から思い、どのように実施すればいいのかの議論に加わりたいと考えたのです。こうした三つの要素が相まって、ビジネス界の
意見の大勢が形づくられていったのです」
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